百人一首一覧

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1
秋の田の
かりほの庵の
苫をあらみ
我が衣手は
露に濡れつつ
【 天智天皇 】

あきのたの
かりほのいほの
とまをあらみ
わがころもでは
つゆにぬれつつ
【 てんじてんのう 】


2
春過ぎて
夏来にけらし
白妙の
衣もほすてふ
天の香具山
【 持統天皇 】

はるすぎて
なつきにけらし
しろたえの
ころもほすちょう
あまのかぐやま
【 じとうてんのう 】


3
あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む
【 柿本人麻呂 】

あしびきの
やまどりのおの
しだれおの
ながながしよを
ひとりかもねむ
【 かきのもとのひとまろ 】


4
田子の浦に
うち出でて見れば
白妙の
富士の高嶺に
雪は降りつつ
【 山部赤人 】

たごのうらに
うちでてみれば
しろたえの
ふじのたかねに
ゆきはふりつつ
【 やまべのあかひと 】


5
奥山に
紅葉ふみわけ
鳴く鹿の
声聞くときぞ
秋はかなしき
【 猿丸太夫 】

おくやまに
もみじふみわけ
なくしかの
こえきくときぞ
あきはかなしき
【 さるまるだゆう 】


6
かささぎの
渡せる橋に
置く霜の
白きを見れば
夜ぞ更けにける
【 中納言家持 】

かささぎの
わたせるはしに
おくしもの
しろきをみれば
よぞふけにける
【 ちゅうなごんやかもち 】


7
天の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
【 安倍仲麻呂 】

あまのはら
ふりさけみれば
かすがなる
みかさのやまに
いでしつきかも
【 あべのなかまろ 】


8
我が庵は
都のたつみ
しかぞ住む
世を宇治山と
人はいふなり
【 喜撰法師 】

わがいおは
みやこのたつみ
しかぞすむ
よをうじやまと
ひとはいうなり
【 きせんほうし 】


9
花の色は
移りにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせし間に
【 小野小町 】

はなのいろは
うつりにけりな
いたずらに
わがみよにふる
ながめせしまに
【 おののこまち 】


10
これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
逢坂の関
【 蝉丸 】

これやこの
ゆくもかえるも
わかれては
しるもしらぬも
おうさかのせき
【 せみまる 】


11
わたの原
八十島かけて
こぎ出でぬと
人には告げよ
あまのつり舟
【 参議篁 】

わたのはら
やそしまかけて
こぎいでぬと
ひとにはつげよ
あまのつりぶね
【 さんぎたかむら 】


12
天つ風
雲の通ひ路
吹きとぢよ
をとめの姿
しばしとどめむ
【 僧正遍昭 】

あまつかぜ
くものかよいじ
ふきとじよ
おとめのすがた
しばしとどめん
【 そうじょうへんじょう 】


13
筑波嶺の
峰より落つる
みなの川
恋ぞつもりて
淵となりぬる
【 陽成院 】

つくばねの
みねよりおつる
みなのがわ
こいぞつもりて
ふちとなりぬる
【 ようぜいいん 】


14
陸奥の
しのぶもぢずり
誰ゆゑに
乱れそめにし
我ならなくに
【 河原左大臣 】

みちのくの
しのぶもじずり
たれゆえに
みだれそめにし
われならなくに
【 かわらのさだいじん 】


15
君がため
春の野に出でて
若菜つむ
わが衣手に
雪は降りつつ
【 光孝天皇 】

きみがため
はるののにいでて
わかなつむ
わがころもでに
ゆきはふりつつ
【 こうこうてんのう 】


16
立ち別れ
いなばの山の
峰に生ふる
まつとし聞かば
今帰り来む
【 中納言行平 】

たちわかれ
いなばのやまの
みねにおうる
まつとしきかば
いまかえりこん
【 ちゅうなごんゆきひら 】


17
ちはやぶる
神代も聞かず
竜田川
からくれなゐに
水くくるとは
【 在原業平朝臣 】

ちはやぶる
かみよもきかず
たつたがわ
からくれないに
みずくくるとは
【 ありわらのなりひらあそん 】


18
住の江の
岸に寄る波
よるさへや
夢の通ひ路
人目よくらむ
【 藤原敏行朝臣 】

すみのえの
きしによるなみ
よるさえや
ゆめのかよいじ
ひとめよくらん
【 ふじわらのとしゆきあそん 】


19
難波潟
短き葦の
ふしの間も
逢はでこの世を
過ぐしてよとや
【 伊勢 】

なにわがた
みじかきあしの
ふしのまも
あわでこのよを
すぐしてよとや
【 いせ 】


20
わびぬれば
今はた同じ
難波なる
みをつくしても
逢はむとぞ思ふ
【 元良親王 】

わびぬれば
いまはたおなじ
なにわなる
みをつくしても
あわんとぞおもう
【 もとよししんのう 】


21
今来むと
言ひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出でつるかな
【 素性法師 】

いまこんと
いいしばかりに
ながつきの
ありあけのつきを
まちいでつるかな
【 そせいほうし 】


22
吹くからに
秋の草木の
しをるれば
むべ山風を
嵐といふらむ
【 文屋康秀 】

ふくからに
あきのくさきの
しおるれば
むべやまかぜを
あらしというらん
【 ふんやのやすひで 】


23
月見れば
ちぢに物こそ
かなしけれ
わが身ひとつの
秋にはあらねど
【 大江千里 】

つきみれば
ちぢにものこそ
かなしけれ
わがみひとつの
あきにはあらねど
【 おおえのちさと 】


24
このたびは
ぬさもとりあへず
手向山
紅葉の錦
神のまにまに
【 菅家 】

このたびは
ぬさもとりあえず
たむけやま
もみじのにしき
かみのまにまに
【 かんけ 】


25
名にし負はば
逢坂山の
さねかづら
人に知られで
くるよしもがな
【 三条右大臣 】

なにしおわば
おうさかやまの
さねかずら
ひとにしられで
くるよしもがな
【 さんじょうのうだいじん 】


26
小倉山
峰の紅葉葉
心あらば
今ひとたびの
みゆき待たなむ
【 貞信公 】

おぐらやま
みねのもみじば
こころあらば
いまひとだびの
みゆきまたなん
【 ていしんこう 】


27
みかの原
わきて流るる
いづみ川
いつ見きとてか
恋しかるらむ
【 中納言兼輔 】

みかのはら
わきてながるる
いずみがわ
いつみきとてか
こいしかるらん
【 ちゅうなごんかねすけ 】


28
山里は
冬ぞさびしさ
まさりける
人めも草も
かれぬと思へば
【 源宗干朝臣 】

やまざとは
ふゆぞさびしさ
まさりける
ひとめもくさも
かれぬとおもえば
【 みなもとのむねゆきあそん 】


29
心あてに
折らばや折らむ
初霜の
置きまどはせる
白菊の花
【 凡河内躬恒 】

こころあてに
おらばやおらん
はつしもの
おきまどわせる
しらぎくのはな
【 おおしこうちのみつね 】


30
有明けの
つれなく見えし
別れより
暁ばかり
憂きものはなし
【 壬生忠岑 】

ありあれの
つれなくみえし
わかれより
あかつきばかり
うきものはなし
【 みぶのただみね 】


31
朝ぼらけ
有明の月と
見るのでに
吉野の里に
降れる白雪
【 坂上是則 】

あさぼらけ
ありあけのつきと
みるまでに
よしののさとに
ふれるしらゆき
【 さかのうえのこれのり 】


32
山川に
風のかけたる
しがらみは
流れもあへぬ
紅葉なりけり
【 春道列樹 】

やまがわに
かぜのかけたる
しらがみは
ながれもあえぬ
もみじなりけり
【 はるみちのつらき 】


33
ひさかたの
光のどけき
春の日に
しづ心なく
花の散るらむ
【 紀友則 】

ひさかたの
ひかりのどけき
はるのひに
しずこころなく
はなのちるらん
【 きのとものり 】


34
誰をかも
知る人にせむ
高砂の
松も昔の
友ならなくに
【 藤原興風 】

たれをかも
しるひとにせん
たかさごの
まつもむかしの
ともならなくに
【 ふじわらのおきかぜ 】


35
人はいさ
心も知らず
ふるさとは
花ぞ昔の
香ににほひける
【 紀貫之 】

ひとはいさ
こころもしらず
ふるさとは
はなぞむかしの
かににおいける
【 きのつらゆき 】


36
夏の夜は
まだ宵ながら
明けぬるを
雲のいづこに
月宿るらむ
【 清原深養父 】

なつのよは
まだよいながら
あけぬるを
くものいずこに
つきやどるらん
【 きよはらのふかやぶ 】


37
白露に
風の吹きしく
秋の野は
つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける
【 文屋朝康 】

しらつゆに
かぜのふきしく
あきののは
つらぬきとめぬ
たまぞちりける
【 ふんやのあさやす 】


38
忘らるる
身をば思はず
誓ひてし
人の命の
惜しくもあるかな
【 右近 】

わすらるる
みをばおもわず
ちかいてし
ひとのいのちの
おしくもあるかな
【 うこん 】


39
浅茅生の
小野の篠原
忍ぶれど
あまりてなどか
人の恋しき
【 参議等 】

あさじうの
おののしのはら
しのぶれど
あまりてなどか
ひとのこいしき
【 さんぎひとし 】


40
忍ぶれど
色に出でにけり
わが恋は
ものや思ふと
人の問ふまで
【 平兼盛 】

しのぶれど
いろにいでにけり
わがこいは
ものやおもうと
ひとのとうまで
【 たいらのかねもり 】


41
恋すてふ
わが名はまだき
立ちにけり
人知れずこそ
思ひそめしか
【 壬生忠見 】

こいすちょう
わがなはまだき
たちにけり
ひとしれずこそ
おもいそめしか
【 みぶのただみ 】


42
契りきな
かたみに袖を
しぼりつつ
末の松山
波越さじとは
【 清原元輔 】

ちぎりきな
かたみにそでを
しぼりつつ
すえのまつやま
なみこさじとは
【 きよはらのもとすけ 】


43
逢ひ見ての
後の心に
くらぶれば
昔はものを
思はざりけり
【 中納言敦忠 】

あいみての
のちのこころに
くらぶれば
むかしはものを
おもわざりけり
【 ごんちゅうなごんあつただ 】


44
逢うことの
絶えてしなくは
なかなかに
人をも身をも
恨みざらまし
【 中納言朝忠 】

おうことも
たえてしなくは
なかなかに
ひとをもみをも
うらみざらまし
【 ごんちゅうなごんあさただ 】


45
あはれとも
言ふべき人は
思ほえで
身のいたづらに
なりぬべきかな
【 謙徳公 】

あわれとも
いうべきひとは
おもおえで
みのいたずらに
なりぬべきかな
【 けんとくこう 】


46
由良の門を
渡る舟人
かぢを絶え
行方も知らぬ
恋の道かな
【 曾禰好忠 】

ゆらのとを
わたるふなびと
かじをたえ
ゆくえもしらぬ
こいのみちかな
【 そねのよしただ 】


47
八重むぐら
茂れる宿の
さびしきに
人こそ見えね
秋は来にけり
【 恵慶法師 】

やえむくら
しげれるやどの
さびしきに
ひとこそみえね
あきはきにけり
【 えぎょうほうし 】


48
風をいたみ
岩うつ波の
おのれのみ
くだけてものを
思ふころかな
【 源重之 】

かぜをいたみ
いわうつなみの
おのれのみ
くだけてものを
おもうころかな
【 みなもとのしげゆき 】


49
みかきもり
衛士のたく火の
夜は燃え
昼は消えつつ
ものをこそ思へ
【 大中臣能宣朝臣 】

みかきもり
えじのたくひの
よるはもえ
ひるはきえつつ
ものをこそおもえ
【 おおなかとみのよしのぶあそん 】


50
君がため
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな
【 藤原義孝 】

きみがため
おしからざりし
いのちさえ
ながくもがなと
おもいけるかな
【 ふじわらのよしたか 】


51
かくとだに
えやはいぶきの
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを
【 藤原実方朝臣 】

かくとだに
うやわいぶきの
さしもぐさ
さしもしらじな
もゆるおもいを
【 ふじわらのさねかたあそん 】


52
明けぬれば
暮るるものとは
知りながら
なほ恨めしき
朝ぼらけかな
【 藤原道信朝臣 】

あけぬれば
くるるものとは
しりながら
なおうらめしき
あさぼらけかな
【 ふじわらのみちのぶあそん 】


53
嘆きつつ
ひとり寝る夜の
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る
【 右大将道綱母 】

なげきつつ
ひとりぬるよの
あくるまは
いかにひさしき
ものとかわしる
【 うだいしょうみちつなのはは 】


54
忘れじの
行く末までは
かたければ
今日を限りの
命ともがな
【 儀同三司母 】

わすれじの
ゆくすえまでは
かたければ
きょうをかぎりの
いのちともがな
【 ぎどうさんしのはは 】


55
滝の音は
絶えて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ
【 大納言公任 】

たきのおとは
たえてひさしく
なりぬれど
なこそながれて
なおきこえけれ
【 だいなごんきんとう 】


56
あらざらむ
この世のほかの
思ひ出に
いまひとたびの
逢ふこともがな
【 和泉式部 】

あらざらむ
このよのほかの
おもいでに
いまひとたびの
おうこともがな
【 いずみしきぶ 】


57
めぐり逢ひて
見しやそれとも
わかぬ間に
雲がくれにし
夜半の月かな
【 紫式部 】

めぐりあいて
みしやそれとも
わかぬまに
くもがくれにし
よわのつきかな
【 むらさきしきぶ 】


58
有馬山
猪名の笹原
風吹けば
いでそよ人を
忘れやはする
【 大弐三位 】

ありまやま
いなのささはら
かぜふけば
いでよそひとを
わすれやわする
【 だいにのさんみ 】


59
やすらはで
寝なましものを
小夜ふけて
かたぶくまでの
月を見しかな
【 赤染衛門 】

やすらわで
ねなましものを
さよふけて
かたぶくまでの
つきをみしかな
【 あかぞめえもん 】


60
大江山
いく野の道の
遠ければ
まだふみもみず
天の橋立
【 小式部内侍 】

おおえやま
いくののみちの
とおければ
まだふみもみず
あまのはしだて
【 こしきぶのないし 】


61
いにしへの
奈良の都の
八重桜
けふ九重に
にほひぬるかな
【 伊勢大輔 】

いにしえの
ならのみやこの
やえざくら
きょうここのえに
においぬるかな
【 いせのたいふ 】


62
夜をこめて
鳥の空音は
はかるとも
よに逢坂の
関はゆるさじ
【 清少納言 】

よをこめて
とりのそらねは
はかるとも
よにおうさかの
せきはゆるさじ
【 せいしょうなごん 】


63
今はただ
思ひ絶えなむ
とばかりを
人づてならで
言ふよしもがな
【 左京大夫道雅 】

いまはただ
おもいたえなん
とばかりを
ひとづてならで
いうよしもがな
【 さきょうのだいぶみちまさ 】


64
朝ぼらけ
宇治の川霧
たえだえに
あらはれわたる
瀬々の網代木
【 権中納言定頼 】

あさぼらけ
うじのかわぎり
たえだえに
あらわれわたる
せぜのあじろぎ
【 ごんちゅうなごんさだより 】


65
恨みわび
ほさぬ袖だに
あるものを
恋に朽ちなむ
名こそ惜しけれ
【 相模 】

うらみわび
ほさぬそでだに
あるものを
こいにくちなむ
なこそおしけれ
【 さがみ 】


66
もろともに
あはれと思へ
山桜
花よりほかに
知る人もなし
【 前大僧正行尊 】

もろともに
あわれとおもえ
やまざくら
はなよりほかに
しるひともなし
【 さきのだいそうじょうぎょうそん 】


67
春の夜の
夢ばかりなる
手枕に
かひなく立たむ
名こそ惜しけれ
【 周防内侍 】

はるのよの
ゆめばかりなる
たまくらに
かいなくたたん
なこそおしけれ
【 すおうのないし 】


68
心にも
あらでうき世に
ながらへば
恋しかるべき
夜半の月かな
【 三条院 】

こころにも
あらでうきよに
ながらえば
こいしかるべき
よわのつきかな
【 さんじょういん 】


69
嵐吹く
三室の山の
もみぢ葉は
竜田の川の
錦なりけり
【 能因法師 】

あらしふく
みむろのやまの
もみじばは
たつたのかわの
にしきなりけり
【 のういんほうし 】


70
さびしさに
宿を立ち出でて
ながむれば
いづこも同じ
秋の夕暮れ
【 良暹法師 】

さびしさに
やどをたちいでて
ながむれば
いずこもおなじ
あきのゆうぐれ
【 りょうぜんほうし 】


71
夕されば
門田の稲葉
おとづれて
葦のまろ屋に
秋風ぞ吹く
【 大納言経信 】

ゆうされば
かどたのいなば
おとずれて
あしのまろやに
あきかぜぞふく
【 だいなごんつねのぶ 】


72
音に聞く
高師の浜の
あだ波は
かけじや袖の
濡れもこそすれ
【 祐子内親王家紀伊 】

おとにきく
たかしのはまの
あだなみは
かけじやそでの
ぬれもこそすれ
【 ゆうしないしんのうけのきい 】


73
高砂の
尾の上の桜
咲きにけり
外山の霞
立たずもあらなむ
【 前権中納言匡房 】

たかさごの
おのえのさくら
さきにけり
とやまのかすみ
たたずもあらなん
【 さきのごんちゅうなごんまさふさ 】


74
憂かりける
人を初瀬の
山おろしよ
はげしかれとは
祈らぬものを
【 源俊頼朝臣 】

うかりける
ひとをはつせの
やまおろしよ
はげしかれとは
いのらぬものを
【 みなもとのとしよりあそん 】


75
契りおきし
させもが露を
命にて
あはれ今年の
秋もいぬめり
【 藤原基俊 】

ちぎりおきし
させもがつゆの
いのちにて
あわれことしの
あきもいぬめり
【 ふじわらのもととし 】


76
わたの原
こぎ出でて見れば
ひさかたの
雲居にまがふ
沖つ白波
【 法性寺入道前関白太政大臣 】

わたのはら
こぎいでてみれば
ひさかたの
くもいにまごう
おきつしらなみ
【 ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん 】


77
瀬をはやみ
岩にせかるる
滝川の
われても末に
逢はむとぞ思ふ
【 崇徳院 】

せをはやみ
いわにせかるる
たきがわの
われてもすえに
あわんとぞおもう
【 すとくいん 】


78
淡路島
かよふ千鳥の
鳴く声に
幾夜寝ざめぬ
須磨の関守
【 源兼昌 】

あわじしま
かようちどりの
なくこえに
いくよねざめぬ
すまのせきもり
【 みなもとのかねまさ 】


79
秋風に
たなびく雲の
絶え間より
もれ出づる月の
影のさやけさ
【 左京大夫顕輔 】

あきかぜに
たなびくくもの
たえまより
もれいずるつきの
かげのさやけさ
【 さきょうだゆうあきすけ 】


80
長からむ
心も知らず
黒髪の
乱れて今朝は
ものをこそ思へ
【 待賢門院堀川 】

ながからん
こころもしらず
くろかみの
みだれてけさは
ものをこそおもえ
【 たいけんもんいんのほりかわ 】


81
ほととぎす
鳴きつる方を
ながむれば
ただ有明けの
月ぞ残れる
【 後徳大寺左大臣 】

ほととぎす
なきつるかたを
ながむれば
ただありあけの
つきぞのこれる
【 ごとくだいじのさだいじん 】


82
思ひわび
さても命は
あるものを
憂きにたへぬは
涙なりけり
【 道因法師 】

おもいわび
さてもいのちは
あるものを
うきにたえぬは
なみだなりけり
【 どういんほうし 】


83
世の中よ
道こそなけれ
思ひ入る
山の奥にも
鹿ぞ鳴くなる
【 皇太后宮大夫俊成 】

よのなかよ
みちこそなけれ
おもいいる
やまのおくにも
しかぞなくなる
【 こうたいごうぐうのたいぶとしなり 】


84
長らへば
またこのごろや
しのばれむ
憂しと見し世ぞ
今は恋しき
【 藤原清輔朝臣 】

ながらえば
またこのごろや
しのばれん
うしとみしよぞ
いまはこいしき
【 ふじわらのきよすけあそん 】


85
夜もすがら
物思ふころは
明けやらで
閨のひまさへ
つれなかりけり
【 俊恵法師 】

よもすがら
ものおもうころは
あけやらで
ねやのひまさえ
つれなかりけり
【 しゅんえほうし 】


86
歎けとて
月やは物を
思はする
かこち顔なる
わか涙かな
【 西行法師 】

なげけとて
つきやわものを
おもわする
かこちかおなる
わがなみだかな
【 さいぎょうほうし 】


87
村雨の
露もまだ干ぬ
槇の葉に
霧立ちのぼる
秋の夕暮れ
【 寂蓮法師 】

むらさめの
つゆもまだひぬ
まきのはに
きりたちのぼる
あきのゆうぐれ
【 じゃくれんほうし 】


88
難波江の
葦のかりねの
ひとよゆゑ
みをつくしてや
恋ひわたるべき
【 皇嘉門院別当 】

なにわえの
あしのかりねの
ひとよゆえ
みをつくしてや
こいわたるべき
【 こうかもんいんのべっとう 】


89
玉の緒よ
絶えなば絶えね
ながらへば
忍ぶることの
弱りもぞする
【 式子内親王 】

たまのおよ
たえなばたえね
ながらえば
しのぶることの
よわりもぞする
【 しょくしないしんのう 】


90
見せばやな
雄島の海人の
袖だにも
ぬれにぞぬれし
色は変はらず
【 殷富門院大輔 】

みせばやな
おじまのあまの
そでだにも
ぬれにぞぬれし
いろはかわらず
【 いんぷもんいんのたいふ 】


91
きりぎりす
鳴くや霜夜の
さむしろに
衣かたしき
ひとりかも寝む
【 後京極摂政前太政大臣 】

きりぎりす
なくやしもよの
さむしろに
ころもかたしき
ひとりかもねむ
【 ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん 】


92
わが袖は
潮干に見えぬ
沖の石の
人こそ知らね
乾く間もなし
【 二条院讃岐 】

わがそでは
しおひにみえぬ
おきのいしの
ひとこそしらね
かわくまもなし
【 にじょういんのさぬき 】


93
世の中は
常にもがもな
渚こぐ
海人の小舟の
綱手かなしも
【 鎌倉右大臣 】

よのなかは
つねにもがもな
なぎさこぐ
あまのおぶねの
つなでかなしも
【 かまくらのうだいじん 】


94
み吉野の
山の秋風
さ夜更けて
ふるさと寒く
衣打つなり
【 参議雅経 】

みよしのの
やまのあきかぜ
さよふけて
ふるさとさむく
ころもうつなり
【 さんぎまさつね 】


95
おほけなく
うき世の民に
おほふかな
わが立つ杣に
すみぞめの袖
【 前大僧正慈円 】

おおけなく
うきよのたみに
おおうかな
わがたつそまに
すみぞめのそで
【 さきのだいそうじょうじえん 】


96
花さそふ
嵐の庭の
雪ならで
ふりゆくものは
わが身なりけり
【 入道前太政大臣 】

はなさそう
あらしのにわの
ゆきならで
ふりゆくものは
わがみなりけり
【 にゅうどうさきのだいじょうだいじん 】


97
来ぬ人を
まつほの浦の
夕なぎに
焼くや藻塩の
身も焦がれつつ
【 権中納言定家 】

こぬひとを
まつほのうらの
ゆうなぎに
やくやもしおの
みもこがれつつ
【 ごんちゅうなごんさだいえ 】


98
風そよぐ
ならの小川の
夕暮れは
禊ぞ夏の
しるしなりける
【 従二位家隆 】

かぜそよぐ
ならのおがわの
ゆうぐれは
みそぎぞなつの
しるしなりける
【 じゅうにいいえたか 】


99
人もをし
人も恨めし
あぢきなく
世を思ふゆゑに
物思ふ身は
【 後鳥羽院 】

ひともおし
ひともうらめし
あじきなく
よをおもうゆえに
ものおもうみは
【 ごとばいん 】


100
ももしきや
古き軒端の
しのぶにも
なほあまりある
昔なりけり
【 順徳院 】

ももしきや
ふるきのきばの
しのぶにも
なおあまりある
むかしなりけり
【 じゅんとくいん 】